イジワル同期は溺愛パパ⁉ でした

そう考えていると私のお皿の上に、あるにぎりがポトンと置かれた。

「コレやる」

安藤が私にくれたのは、大トロのにぎり。

「安藤、もしかして大トロ嫌いなの?」

「いや。好きだけど」

私なら自分が好きな食べ物を、人にあげたりしない。

「好きなのにどうして食べないの?」

予想外の安藤の返事に驚きながら尋ねる。

「いいから食えよ」

箸を置いて私を見つめる安藤の瞳は相変わらず柔らかい弧を描いているし、口調も穏やかで怒っているわけではなさそうだ。

どうせ、ここの支払いは私持ち。だったら遠慮せずに大トロをいただこう。

「あ、うん。ありがと」

「どういたしまして」

安藤が見守る中、お礼を告げると大トロを口に運ぶ。

「うまいか?」

「うん。おいしい」

「そっか」

満足そうにうなずいた安藤が朗らかに笑った。

支店の飲み会で隣の席になったこともあるし、同期会にも一緒に参加する。けれど安藤とふたりきりで食事をするのは今日が初めて。

同期の安藤が私にだけ笑顔を見せるなんて、調子が狂う……。

< 15 / 210 >

この作品をシェア

pagetop