イジワル同期は溺愛パパ⁉ でした

「だから、うち、安藤くんとキスしたんやって」

二度同じ言葉を聞いた私の頭の中に、朝陽と彼女がキスを交わしているシーンが浮かんだ。

けれど私と朝陽は結婚を前提につき合っている。いくら遠距離恋愛中といっても、朝陽は彼女である私以外の女性とキスをするような軽い男ではないと断言できる。

「う、嘘言わないでっ!」

朝陽とキスをしたという彼女の言葉を鵜呑みにはできなくて、声を荒げて反論した。しかし彼女も負けてない。

「嘘やないって。この際やから言わしてもらうけど、うち安藤くんのこと好きやから。いつかアンタから安藤くんを奪ってやるから覚悟しとき」

彼女の宣戦布告がマンションのエントランスに響き渡る。

朝陽がモテるのは今に始まったことではない。こんなことくらいで動揺などしていられない。

「あなたに朝陽は渡しません」

背筋を伸ばして自分を奮い立たせると、名前も知らない彼女を真っ直ぐ見据える。すると彼女は不満そうに「ふん!」とひと言漏らしてエントランスから出て行った。

朝陽にはまだ会えず、謎の彼女と言い争うことになるなんて、今日はツイていない……。

「もう、なんなのよっ!」

誰もいないマンションのエントランスで、怒りに任せて声をあげた。

< 166 / 210 >

この作品をシェア

pagetop