イジワル同期は溺愛パパ⁉ でした
「……距離を置きたいって言われた」
母親に聞きこえるかどうかもわからないほど、小さな声で事実を打ち明けた。
朝陽とスマホで交わした会話を思い返すだけで、鼻の奥がツンとして涙が込み上げてきてしまう。
母親に泣き顔を見られるのが恥ずかしくて、抱えていた膝に額をつけると顔を隠し、瞳から涙がこぼれ落ちないように下唇を噛みしめた。
けれど母親は感傷的になっている私のことなど、おかまいなしだ。
「あら。やっぱりフラれたんじゃない」
「だからフラれてないってばっ!」
膝につけていた顔を勢いよく上げると、すぐさま反論した。それでも母親のペースは崩れない。
「まあ、人生いろいろとあるわよ。元気出しなさい」
母親は腰を下ろしていたベッドから立ち上がり、私の肩をポンと軽く叩く。
なんだかんだ言いつつも、最終的には私をさりげなく励ましてくれる母親の気遣いがうれしい。
「うん……ありがと」
私の部屋から出て行こうとする母親の背中に向かって、感謝の言葉を口にした。
おせち料理を食べて、リビングのこたつに入りながらテレビのお正月番組を見て過ごす。そんなまったりとした三が日はあっという間に過ぎ、銀行窓口でお客様を迎える日常が戻ってきた。
「鈴木さん。その書類、ファイリングしちゃいますね」
自らファイリングを引き受けたのは、毎日を忙しく過せば朝陽のことを考えずに済むから。
「あ、ありがとう」
窓口係の先輩である鈴木さんが目を丸くして驚く顔をおかしく思いながら、書庫に向かった。