今夜、夫婦になります~俺様ドクターと極上な政略結婚~
あの瞬間は慄いてしまったけど、逃げたりしないで現場を押さえればよかった。
「これは一体どういうこと?」と堂々と目の前まで行って、別れを告げてくればよかった。今になって後悔が生まれる。
「私が付き合う人って、どうしてこうなんだろ……今の人も、その前の彼も。だから、医者は嫌なのよ」
「医者……?」
つい口を滑らせたように沙帆が口にした〝医者〟のフレーズに、鷹取が反応する。
だけど、沙帆は特に気に留めることもせず小さく頷く。
「うち……両親が医師で、家系的にも医者の一族なんです。兄も今は医師になりましたし……。だから、そういった集まりとかで紹介されたりする人ってみんな医者で。お見合いを勧められても、やっぱり相手はみんな医者だし……」
生まれ育った環境、逃れられない運命なのかもしれない。
でも、今回のことでもう懲り懲りだと、沙帆は心がくたくたになっていた。
「でも、決めました! もう医者とは関わらないようにしようって」
親が医者だろうと、そういう家系だろうが、もう医者とはお付き合いはしない。
沙帆は心に誓ったことを自分に言い聞かせるように、敢えて口にして主張した。
「あっ、すみません。急に、こんな話――」
そんな時だった。