今夜、夫婦になります~俺様ドクターと極上な政略結婚~
射抜くように見つめられ、沙帆の弱々しく浮かべた笑みが消されていく。
真っ直ぐなその目に沙帆はどきりとし、そして胸に圧迫感のような苦しさを覚えた。
「そんな調子じゃ、自分の気持ちも言ってないわね、きっと」
自分の、気持ち――。
静かな病室に、沙帆は自分の鼓動が大きく鳴り響いているような幻聴を聴く。
咲良の視線に耐えられなくなり目を伏せると、わざとらしいため息が沈黙に落とされた。
「私は、好きになったらすぐに伝えるわ。好きも嫌いも、自分の気持ちに素直に生きるって決めてるから」
ゆっくりと上げた視線の先、咲良はもう沙帆を見ていなかった。
窓の外、遠くをじっと見つめる。
「だって……もしかしたら、明日死んじゃうかもしれないでしょ?」
心臓病と共に生きる咲良のその言葉は、行き過ぎた冗談でも、例え話でもない。
彼女自身が身を持って感じている、確かな現実。
沙帆は、怜士のことが好きだとストレートにぶつけてきた、初めて会った時の咲良のことを思い出した。