からめる小指  ~愛し合う思い~
「尋、忘れ物はないか?
ガスの元栓も、ちゃんと閉めたよな?
窓の鍵も閉まってるし…………大丈夫だな。
ヨシ、それじゃあ出発するぞ。」

ギプスも先週取れ、リハビリも順調に進んで

夏休み中にデートが実現した。

この夏、千尋にとっては辛いことばかりだったから

せめて残りの時間は、楽しませてやりたいと思い………

人目を気にしないですむよう、旅行に行くことにした。

一昨日の朝、1週間分の食料の買い出しに行くという尋に

「これから2日は、パンか弁当にする。
冷蔵庫にあまり入れてはいけない。」とだけ伝えた。

意味が分からないという顔をする千尋に

「家に帰って、水着とお泊まり用の荷物を用意しておいで。
沖縄に行くから。」と

「沖縄?!」

「そっ、沖縄。
頑張った尋にご褒美。」

「えっと………でも。」

「別に旅行に行くからって、この間のように襲わないよ。
この辺りだと誰に逢うか分からないからね。
流石に夏休みラストの1週間で、受験生が沖縄旅行に行かないだろう?
穴場だと思って。
去年の修学旅行は淋しい思いをさせたから………
思い出の上書きをしようと思って。」

「…………ホントにホント??」

「ホント。
そうと決まったら荷物を取りに行くぞ。」

戸惑いながらも嬉しそうな千尋は、意味もなく部屋を行ったり来たりしている。

「先生……どうしよう。
修学旅行くらいしか旅行ってしてないから……
何を用意して良いのか分からないよ。」

「三泊四日だから、下着と着替えと水着……
後は歯ブラシセットと携帯の充電器くらいかな?
足りない物はあっちで買えば良いし。」

ぐずぐずする千尋を急き立てて車で自宅に送る。

「ちょっと買いたい物があるから、用意が出来たらメールして。」

今回、この旅行を計画したのには訳がある。

千尋にとっては辛いことと嬉しいことが待っている。

これは………樹とはぁちゃんも同じだ。

今頃、樹もはぁちゃんと北海道で話しているはずだ。
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