ハイド・アンド・シーク


時刻はお昼より少し前、十時から入っていた経営広報部とのミーティングで使った書類をオフィスに持ち帰る。
分厚いファイルをよいしょとデスクへ置き、ひと息。

これからさっきのミーティングで打ち合わせた、リリース原稿の書き直しだ。気が重い。
ダメ出しをされまくって、さすがに疲れてしまった。
私の書いた原稿は、そんなに冒険心がないのか?

ため息をもう一度つきそうになって、なんとか飲み込んでパソコンへ目を向けて手が止まる。


キーボードの上に、ちょこんとミカン。それにペタッとパンダの顔が見える付箋紙。
付箋紙を開くと、小さな文字で
「テキトーな嘘をみんなに吹き込んでゴメンネ。お詫びのミカン。みねた」


「……ふふ、ミカンかぁ」


私よりもひと回りほど上の峯田さんは、噂好きのベテラン事務員。

デスクが離れているからあまり会話はしないけれど、もしかして───と顔を上げると、離れたところにいる峯田さんがこちらを見て手を振っていた。
私も手を振り返し、ミカンに頬擦りしたら彼女は声を出して笑った。

テキトーな嘘、というちょっぴり寂しい言葉にしんみりした。
誰が見たって釣り合わないから、仕方ない。


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