ハイド・アンド・シーク


ダメ出しされたデータをフォルダから呼び出し、思い切って全部消す。
冒険心を出せ、面白味を感じさせろ、と散々言われたから、もうこうなったら面白おかしく書いてやる!

カタカタとキーボードを打ち出して間もなく─────。


「今日の親睦会の出欠、最終確認しまーす!人数確定させてお店に連絡入れますのでー」


幹事を任されている営業部の越智さんが、声を張り上げてオフィス全体に話しかける。大学時代はラグビーをやっていた体育会系なだけあって、声が通る。
参加の人は手を挙げて、という言葉に合わせてぞろぞろと手が挙がった。もちろん、私の隣のデスクの茜も「はーい」と元気よく手を伸ばしていた。

いつもの癖で、遠い席の有沢主任を見る。
こちらなんか見ていないと思って視線を送ったのに、ばっちり目が合ってしまった。

ハッとして目を丸くしていると、彼がにこりと笑う。
目をそらす暇もなかった。


いつもの営業課全体での飲み会よりは、格段に人数が少ない。
プロジェクトに参加している人は営業課では限られているし、今日の親睦会には上層部の人たちは来ないはずだ。

社員旅行だって、胃腸炎にかかって行けなかったから私服の主任を拝むことが出来なかった。


─────もしかしたら、ほんの少しだけでも主任と話せたりするかな?
たったそれだけの理由で、私はついに手を挙げてしまった。


「おぉ!菜緒もついに来る気になったのね!」
と、隣で茜が喜んでくれている様子だ。


彼はもう私のことは見ていなかったけれど、だからこそ今度は堂々と見つめることができる。
なかなか視線が交わらなくてもどかしい、という感情はどこにもない。

勇気が出ないから、それしかできない。





こんなことばっかり考えている私は、不謹慎だ。







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