ハイド・アンド・シーク


「自慢じゃないですけど、私、いつも作成した書類はたいていダメ出しされて一回で通ったことなんかないです。今日もリリース原稿、弾かれちゃいました」

「リリース?広報の?」

「はい。先月から田中さんから引き継いで私が担当になったんですけど……。アナリスト向けの説明会で中期経営計画について要約したものを書き出してまとめたんです。どうしてもただ文字を羅列するだけというか、自分の意見を挟み込めなくて」

「あー、最初は誰でもそうだよ。そもそも他人の発言に自分の意見を組み込むって難しいよね。中期経営計画ならたぶん俺もなんとなく覚えてるけど、海外事業へのリスク管理とかの話もあったよね?そもそも前期に比べて利益が縮小するのもさ、細々した理由も同時に並べないと読み手には伝わらないよね」


驚愕した。もしかして、この人はあの長ったらしいスピーチの内容をすべて理解しているのだろうか?
私なんて目の前に置かれても理解できないというのに。

私の視線に気づいた主任は、慌てたように手を振った。


「誤解しないでね、俺もかいつまんで一部しか読んでないから。原稿文は文字数も決まってるからあの大量の話を要約するのはちょっと無理があるよね」

「でも田中さんは毎回違うテーマでもちゃんとやっていたんですよー。すごすぎます」

「森村さんが後任に指名されたってことは、出来ると思ってお願いされたんだと思うよ」


主任のポジティブな考え方は、私も見習いたい。でもそう出来ないのがこの性格の辛いところ。


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