僕に君の愛のカケラをください
葉月の言葉を要約するとこうだ。

会社の裏の公園に段ボールに入れられて捨てられた母犬がいた。

その母犬は、三匹の子犬を出産して息を引き取ったらしい。

葉月は、会社の台車を使ってその犬達を段ボールごと保健所に運び、そのまま居残って世話を手伝った。

三匹のうち、痩せた焦げ茶の雄犬,もといジロウ(仮)が葉月の与えるミルクしか飲まないため、今日からは口にチューブを入れてミルクを注入することになった。

葉月の住むマンションはペット同居可の物件ではないため、連れ帰ることができない。

生後3週間までの子犬は二時間~四時間おきの授乳が必要だ、ミルクを飲まないジロウにとっては口からのチューブだけが命綱だ。

しかし、それも保健所にいる間だけの簡易処置。動物愛護団体に引き渡されれば続けて面倒見てくれるかもしれないが、この数日間生き延びるかが要だ。

葉月が余計な手出しをしたために、ジロウの命を縮めることになるのではないかと、葉月は懸念している。

「その、保健所職員の香川さんが言うように、三匹にとっては葉月が命の恩人だ。結果はどうあれ、葉月の気に病むことではないんじゃないか」

蒼真がそう言うと、葉月は首を振る。

「野生の動物なら弱肉強食で、自然淘汰されるのも仕方ないと思います。でも人間の勝手で繁殖されられて、捨てられて、挙げ句の果てに子犬が命を落とすなんて私には納得出来ないんです」

葉月の言葉を聞いて、蒼真の顔が苦痛で歪んだ。過去の苦しみが脳裏を掠める。

「他の2匹、一郎(仮)と姫(仮)は大丈夫だと思うんです。でもジロウだけは,,,。マンションを移ることも考えましたが費用や手続きを考えるとすぐには引っ越しできません。」

葉月は悲しそうに言った。

他人の捨てた犬にそこまで感情移入できるものなのか?蒼真には理解できない感情だった。

「もし、マンションがどうにかできても、仕事をほったらかしにして授乳のために四時間おきに自宅に帰ることもできないし。どうすればいいか悩んでたらため息ばかりついちゃって,,,。本当にすみませんでした。こんな"個人的"なことで」

"くだらないこと"とは言わない葉月に好感が持てた。

「さ、蒼真さん、今夜は飲みましょう。ジロウのことは実家の父にも相談してみます」

この話は終わり、と 言わんばかりに葉月はその場を取り繕った。

蒼真はそんな葉月に焦って、ひとつの提案を口にしていた。
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