僕に君の愛のカケラをください
K&Sのフレキシブルタイムにおける出社時間は9時。

蒼真のマンションはK&Sから徒歩で10分のところにあるから、出社時間まではまだ十分時間がある。

この一帯は家族向けのモデル団地というだけあって、有名企業やショッピングモール、沿線などが近くにあって、日常生活に不便を感じない好立地だ。

葉月は、昨日の蒼真の交換条件を気にして、早めにマンションに来てくれたのだろう。

「美味しい,,,。」

蒼真は、葉月に促されて並べられた朝食に手をつけるとそう呟いた。

「良かった。味は保証しますよ、とか言ってみたけど半分は自信がなかったんです」

対面キッチンで洗い物をしている葉月は、自宅で朝食を摂ってきたと言った。

蒼真は自宅に女性を招き入れたことはない。

これまで数人いた彼女の誰にも心を完全に開くことができず、結局自宅に招き入れることができぬまま別れる、そんな繰り返しだった。

告白されて付き合って、育ちや価値観の違いに打ちのめされて傷ついて。

そのうち自分は誰も愛せないんじゃないかと思うようになり、彼女を作らなくなってから数年が経っていた。

蒼真は、台所で鼻唄を歌いながら洗い物をする葉月を見て微笑んだ。

これは子犬のために部屋を貸すという交換条件のために成り立つ一時的な関係だ。

葉月の子犬への深い愛情の上に成り立つ関係。

"いつかその愛情の一部でも俺に向けられるといいのに"

蒼真はそんな希望を隠しながら、葉月の思いやりのこもった朝食を口にするのだった。





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