僕に君の愛のカケラをください
「あら、あなた結婚したの?」

女性は不躾に蒼真の隣で鶏肉を選んでいる葉月をジロジロと見た。

葉月が見上げると、蒼真は憂いを帯びた目をして動揺を隠せないでいる。

「ふうん、ずいぶん可愛らしい子を選んだのね。その子なら隣においておけるんだ?」

腕を組んで、蒼真と葉月を馬鹿にしたような顔で見下す女性。

「私は蒼真の大学の時代の彼女よ。蒼真って今、靖晃の会社の副社長やってるんでしょう?あなたはうまく玉の輿にのれて良かったわね」

女性の言っていることの意味がわからない。侮辱されているのだろうか?

それなのに、なぜ、蒼真は何も言い返さないのだろう?

葉月が疑問に思っていると、

「でも、あなたにいいことを教えてあげる」

女性はニヤリと笑って言った。

「蒼真は誰も愛さない。誰も愛せないのよ」

ふんっ、と女性が蒼真に近づく。


「・・・歴代の彼女に対してもそうだった。誰にも本気にならないから、そのうちに女性に捨てられる」

蒼真は女性から目を逸らしたまま、一点を見つめて動かない。

「私は蒼真が好きだったから最初は蒼真を信じてたわ。でも彼女たちの言うことが正しかった。この人は普通の性格じゃない。あなたも不幸になる前に離れることね」

女性は、勝ち誇ったように言い放った。

蒼真を見つめる葉月の視線に気づいているはずなのに、蒼真は何も言い返さない。

葉月は、女性の方に向き直るとツカツカと彼女の目の前まで移動した。
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