僕に君の愛のカケラをください
翌日の昼食時間も、葉月は保健所の動物保護課に顔をだした。

「ああ、あんたか、、、」

子犬担当の香川は、明らかに昨日よりも疲れた表情になっていた。

「生まれたての子犬は2~4時間毎に授乳が必要だ。三匹とも夕べは俺んちに連れて帰ってミルクを与えたが、ジロウだけはダメだ。飲まねえ」

他の2匹とは隔離され、保育器のようなケースに入っているジロウはぐったりしていた。

しかし、葉月が近づくと、ピクリと耳を動かし尻尾をわずかに振った。そして臭いをかぎ分けるように鼻を寄せる仕草をした。

葉月は香川から渡されたミルクをジロウに与えた。安心したようにミルクを飲むジロウ。

「あんたのことを母親と思ってるのかもしれないな。俺の嫁や娘にも授乳をトライさせたがダメだった」

力なく首を振る香川は本当に子犬達を助けたいのだろう。

「今日、獣医先生が来たら口から胃にチューブを入れてもらってミルクを注入する。それも後4日間が限度だ。手がかかるこだわりの強い犬は貰い手がつかないことが多い。あんたが里親になれるといいんだけどな」

葉月の腕の中で眠るジロウを見て、葉月は唇を噛み締めた。

中途半端に介入してしまったために、ジロウの葉月へのこだわりを強めてしまった。

引き取れる訳でもないのに、余計なことをしてしまった自分が情けなくなる。

「まあ、あんたがいなければあの場で三匹とも命を落としてたかもしれないんだ。余計なこと言ってごめんな」

香川の言葉に首を振ってジロウをプラスチックのゲージに戻すと、

「また、明日来ます」

と言って葉月は会社に戻った。

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