溺愛誓約〜意地悪なカレの愛し方〜
「混んできたな。そろそろ行こうか」


不意に周囲を見渡した穂積課長は、私が返事をするよりも早く手を繋いできた。
甘い空気が溶けてしまったと思う暇もなく、また胸の奥がキュンと鳴った。


課長のせいで高鳴る鼓動は息をするのも忘れてしまいそうなくらい、私の心臓を落ち着かせなくさせる。
こんな風にどぎまぎすることに慣れていないのに、ドキドキさせられてもちっとも嫌じゃない。


相手が穂積課長じゃなくても、同じように感じるのだろうか。
その答えを知る術は持ち合わせていないけれど、すぐに辿り着いたそれが正解だと思わずにはいられない。


「お腹空いたんじゃないか? そろそろ昼食にするか」


私がそんなことを考えているなんて知らないはずの課長にとっては、さっきの話なんてなんでもないことなのかもしれない。
そう思うと寂しくなって、同時に少しだけ悔しさを抱きそうにもなったけれど、絡んだ指と手のひらから伝わる体温に懐柔されてしまって、緩んだ頬のまま「そうですね」と頷いていた。

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