溺愛誓約〜意地悪なカレの愛し方〜
「課長……あ、あの……」


キスをした時と同じような甘い笑顔を見せられて、頬に集まった熱が血液を沸騰させるかのように全身に熱を送り始める。
いつか『会社では上司と部下だから』なんて言っていたくせに、まさかのキスの予感にたじろがずにはいられない。


だけど……再び距離を詰めてくる端正な顔を前にして、言葉なんて必要ないくらいに心は懐柔されてしまいそう。


そっと、瞼を閉じる準備をする。
近づいてくる唇から与えてもらえるであろう甘い予感に、胸が高鳴った時――。


「でも、ダメだ」


穂積課長はそんな言葉を落としたあとで、〝いつもの課長の顔〟でにっこりと微笑んだ。


「さぁ、仕事に戻るよ。松井田病院の件もあるし、今日はまだまだ仕事がたくさんあるからね」


あっさりと言い放った穂積課長は、「それに」と続ける。


「上司と部下がキスなんてしないだろ?」

「なっ……!」


途端に顔を真っ赤にしてしまったであろう私は、大声を上げそうになった自分自身をなんとか留めたけれど、不満はしっかりと芽生えていた。


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