溺愛誓約〜意地悪なカレの愛し方〜
過去の恋愛経験のせいで、夢中になるのは怖いのに……。
抗う暇もなく、とっくに穂積課長に囚われていた心は急速に堕ちていく。


不安も、怖さも、今はまだ消せない。
それでも、課長のいろいろな表情を、もっともっと見たい。


そんなことを考えていると唇が離され、途端に与えられたばかりの温もりが恋しくなる。
無言で見つめ合う最中、私はおもむろに口を開いた。


「夢中になるのが怖いんです……。また、振られるかも……って思ってしまうから」

「あぁ」

「でも……課長のことを信じたい」


隠し切れない不安を抱えながら告げれば、穂積課長が破顔した。
仕事中に見せてくれる癒し系の顔とも、ただ優しいだけの表情とも違うその笑みは、私の心を掴んで離さない。


まるで、なにも心配しなくてもいい、と言われているようだった。
だから、課長を真っ直ぐに見つめたまま、私の中の不安を押し退けた。


「そのためにも、ちゃんと課長のものにしてください」


意を決して伝えた言葉は、ゆっくりと部屋の空気に溶けていった。

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