溺愛誓約〜意地悪なカレの愛し方〜
お風呂から上がると、自分の髪を無造作に拭いた穂積課長がドライヤーを手にして私を呼んだ。
洗面台の前に立たされて、後ろに課長が回る。


「乾かしてあげるよ」

「え? でも……」

「いいから甘えなさい」


「課長命令だよ」と、鏡越しに甘い笑みを見せられる。
胸がときめいた私は、高鳴った鼓動を隠すように視線を下げながらも素直に従った。


ドライヤーの風が、髪に吹きかかる。
湯上りの体が熱風によって火照りを増したけれど、穂積課長の指先の感覚が心地好くて、思わず瞼を閉じてしまった。


さっきまでの羞恥なんてすべて帳消しになってしまうくらい、優しい手つき。
愛でられているような感覚すら抱いた今、拗ねていたことはすっかり忘れていた。


「これくらいでどう?」

「ありがとうございます。次は、交代してください。私も課長の髪を乾かしたいです」

「じゃあ、頼む」


受け取ったドライヤーのスイッチを入れ、ほんの少しだけ背伸びをする。
指先に触れる課長の髪の柔らかさに、小さな笑みが零れていた。

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