溺愛誓約〜意地悪なカレの愛し方〜
「もしかして、なにかあったの?」

「え?」

「あ、違うのならいいんだけどね、なにか話したいことでもあったのかなって思って」


キョトンとした二宮くんに小さく笑い掛けたあと、再び手を動かした。
少しして視線をチラリと横に遣ると、彼がいつもの明るい笑みになっていた。


「なにもないよ。ただ、残念だなって思ってただけ」

「ごめんね」

「いや、謝らないで」

「近いうちに埋め合わせするね? 多恵にも予定を訊いておくよ」


給湯室にはコーヒーの香りが漂い、ついでに甘い物も欲しくなってくる。
デスクの中に昨日貰ったチョコレートがあったな、と思い出したところで顔を上げると、二宮くんが私を見つめていた。


「どうしたの?」

「あのさ──」

「あっ、いた! 二宮くん、探してたんだよー!」


なにかを言い掛けた低い声は、突然やって来た同じ営業事務の女性社員によって遮られた。
私たちよりも一年先輩の川井(かわい)さんは、明るい性格で基本的にはいい人だけれど、彼のことが絡むと時々目が怖くなるような気がして、ほんの少しだけ苦手だった。

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