溺愛誓約〜意地悪なカレの愛し方〜
「あっ……」

「あぁ、おはよう。二宮くん」

「おはようございます」


三十分ほどが経った頃、営業部に姿を見せたのは部下の二宮だった。
人当たりがよく努力家の彼は、取引先からの評判も上々で、信頼できる部下のひとりだ。


「部長、早いですね」

「少し業務が溜まってるんだ」


俺が担当していた顧客のほとんどはすでに部下たちに任せているが、中でも二宮への引き継ぎが一番安心できた。
勉強熱心で人付き合いが上手い彼は、営業にとても向いている。


「でも、ちょうどよかった。二宮くん、悪いけど少し時間を取ってくれないか」

「あ、はい! どこか部屋を取りますか?」

「いや、ここでいい。まだ誰も来ないだろうから」


戸惑いを浮かべている二宮に、首を横に振る。
この数ヶ月は営業部内の誰よりも早く出社しているため、この時間にはまだ人が来ないことはわかっている。


「わかりました」

「ごめんね」

「いえ、大丈夫です」


歩み寄ってきた彼に笑みを向け、「手短に済ませるから」と前置きした。

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