極上ショコラ〜恋愛小説家の密やかな盲愛〜
「……可愛いげがないな。もうちょっと抵抗しろよ」


途端につまらなさそうな顔をした篠原に、深いため息を返す。


「こっちは昨日、編集長から散々嫌味を言われているんです。そんな物に構ってまた原稿が遅れるくらいなら、先生に恥を曝す方がずっとマシです」

「お前、本当につまらないな……」


心底つまらなさそうに言った彼は、容赦なくリボンを解いた。元カレのために施したラッピングが、乱暴にこじ開けられていく。


それは、どこか小気味良くも思える光景。
昨夜から心に溜まっていたものが、ほんの少しだけ消えたような気がした。


「あ〜ぁ、溶けてる……。ここ、エアコン効いてるからな」


篠原の綺麗な指先に摘まれた生チョコは、エアコンが発する熱のせいで形が崩れてしまっていた。


「“パヴェ・ド・ショコラ”、ね」

「え?」

「フランス語で“生チョコ”」


小首を傾げた私に短く答えた彼が、それをゆっくりと口に運ぶ。


「苦……。しかも、どれだけリキュール入れてるんだよ……」

「仕方ないじゃないですか……。彼、甘い物が苦手だったんですから」


ビターな物なら食べられるお酒好きな元カレのために、ビターチョコと生クリームに、たっぷりのラム酒を加えたのだ。

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