極上ショコラ〜恋愛小説家の密やかな盲愛〜
「俺は、一緒にコーヒーでもどうかと思っただけだけど?」

「……っ!」


やられたっ……!


ニヤニヤと笑う篠原がなにを考えているのか、なんて言われなくてもわかる。


「お前こそ、なにを考えてたんだよ?」


彼は頬杖をつき、カウンター越しに私を見上げた。


「べ、別になにもっ……!」

「勝手にエロい想像してたのか」

「だから、してませんってば!」


クッと笑った篠原が、おもむろにキッチンにやってきた。


「なんですか……?」


落ち着きを取り戻さない心臓を叱責しながら、慌てて泡だらけの手を洗う。


「ご所望なら、また抱いてやるけど?」

「そんなこと望んでいません!」

「ベッドに行くか? それとも……」


絡みつくように私の腰を引き寄せた彼は、耳元に唇を近づけた。


「あのソファーがいいか?」


低く、甘い囁き。
ゾクリ、体の芯が疼く。


ドクドクと血液が駆け巡り、体温が急激に上がる。一瞬で起こったそれらの変化の中、視線は篠原の言葉につられてソファーに釘づけになってしまう。


思い出すのは、二月十五日のこと。


鳴いて、啼いて、泣いて……。
彼にドロドロに溶かされてしまった、あのほろ甘い夜──。

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