極上ショコラ〜恋愛小説家の密やかな盲愛〜

Chocolat,02 不意に主役になれた女

篠原に散々からかわれたあと、グッタリしながらも夕食の片付けを終えた。
体を襲うこの疲労感は、もう染みつきそうなほどに慣れたもの。


あの二月十五日以降、篠原の私への態度が変わった。以前は、ただの暴君だった彼のからかい方に、明らかに艶めかしさが加わったのだ。


あの日の情事を思い出させるような、と言うよりも、あの夜のことを忘れさせないような振る舞い。


そんなことをする篠原の真意はわからないけれど、まるで日常生活の一部になりそうなほど、もう何度も彼にからかわれているのに……。私はその度に動揺し、そしてひどく狼狽えてしまう。


わかっている。
狼狽えれば狼狽えるほど、篠原を喜ばせてしまうということを……。それでもあんな風に動揺してしまうのは、彼に抱かれたあの夜を忘れることができないから。


篠原にしてみれば、きっとただの興味本位。


普段はお堅い女がベッドの中ではどんな風になるのか、見てみたかっただけなんだろう。結果として、振られたばかりの私を言い包めて、まんまと抱くことができたのだ。


篠原ほどの容姿なら、例え小説家というインドアな職業に就いていたとしても女性に困ることはないはずだからこそ、私を抱いたのは興味本位か暇潰し程度のものだとしか思えない。

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