極上ショコラ〜恋愛小説家の密やかな盲愛〜【コミカライズ配信中】

今日は直帰する予定だったから、大通りに出てタクシーを捕まえた。いつもは電車を使うけれど、念願の【失恋ショコラ】を手にした今は、高い料金を支払ってでも一秒でも早く家に帰りたい。


帰宅してお風呂に入り、ミルクたっぷりのコーヒーを片手にこの作品の世界に浸る。そんな風に過ごす自分を思い浮かべては、笑みが零れた。


ウキウキする、なんて言えば普段の私には不釣り合いな表現だけれど、今の私の心情にピッタリな言葉は他にはない。タクシーの運転手の話に上の空のまま相槌を打ち、ウズウズしながら家に着くのを待っていた。


帰宅後、すぐにお風呂に入って髪を乾かし、ローテーブルにコーヒーを用意して床に腰を下ろした。
ベッドを背もたれにして、深呼吸をする。


コーヒーの隣には、一冊の本。
表紙には“パヴェ・ド・ショコラ”の写真と、デザイナーが描いたタイトル。


ドキドキと高鳴る胸を落ち着かせるためにコーヒーをひと口飲んだけれど、これまで表紙すらまともに見せてもらっていなかったから、どうしたって気持ちが静まりそうにない。


熱いくらいのマグカップをローテーブルに置いて、代わりに真新しい本を手に取る。未だかつて、本を読む前にこんなにも興奮したことはない。


ゆっくりと息を吐いて、一ページ目を開いた。