極上ショコラ〜恋愛小説家の密やかな盲愛〜
しん、と静まり返る。
途端にリビングは沈黙に包まれ、息が詰まりそうなほど重苦しい雰囲気になった。


程なくして、小さな舌打ちをした篠原の顔は、ひどく苛立っているのが見て取れた。ついでに大きなため息をつかれて、なにか言いたげに見つめられる。


だけど……今は自分が発した言葉に対して取り繕う気も、ましてや謝罪をする気もない。


「……お前、今日はもう帰れ」


私が悪いと言わんばかりの彼の表情に、苛立ちを抱く。
相変わらず身勝手なことばかり言われて腹立たしいのに、自分が発した言葉の重みがわからないわけではないから、今の私にはそれを拒否する権利がないことも理解していた。


納得はできないままだけれど、言い返す言葉を探すのも億劫で、おもむろにソファーから立ち上がる。


「……失礼します」


呟くように小さく告げて、リビングのドアを開けた時──。

「お前は、俺のなにを見てるんだよ……」

背後で、やけに切ない声音を零された。


篠原らしくない言い方に一瞬だけ戸惑って、思わず立ち止まりかけたけれど……。私は振り返ることがないまま後ろ手でドアを閉め、まるで彼から逃げ出すような足取りでマンションを後にした──。

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