極上ショコラ〜恋愛小説家の密やかな盲愛〜
心当たりは、ある。


あの日の私の言葉に怒っているのだとしたら、本当は私の方が怒りたいから不本意ではあるけれど……。篠原の不自然な態度自体には、納得はできる。


小説家にとっては自分の子どもとも言われるような作品を、担当者である私は『嫌い』だと貶してしまったのだ。


もちろん、作品自体を本気で貶したわけじゃない。
むしろ、ヒロインのモデルが私ではなかったのなら、最初に口にした『素晴らしい』の言葉のあとに次々と感想が飛び出しただろう。


だけど……私は胸の中で燻るわだかまりを、彼にぶつけてしまった。


担当者としては、あるまじき行為だった。
本来なら、あの場で謝罪をしなければいけなかったのだろう。


それなのに、今もまだ謝罪の言葉を紡げていないのは、篠原に私の恋愛を踏みにじられたような気がしてならないから。


元カレのことを『本気で愛していたのか?』と訊かれれば、きっと私の想いはそこまで深いものではなかったと思う。
それでも、不器用なりに精一杯の恋愛をしていた私にとって、あれは間違いなく“恋”だった。


だからこそ、彼に言い包められて抱かれたことは失態だったけれど……。あの時に負った傷に泣かされなかったのはそのおかげだったのかもしれない、と少しだけ思っていたりもした。


それなのに──。

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