極上ショコラ〜恋愛小説家の密やかな盲愛〜
「ほら、逃げるな」


体はもう無理だと訴えているのが、嫌というほどにわかるのに──。

「大人しく俺に抱かれろよ、雛子」

篠原がとろけるような甘い声音で囁くから、次第に抵抗するために全身に込めた力が弱まっていく。
そうなってしまえば流されるのは簡単で、すぐに吐息混じりの声が漏れた。


「口、開けろ」


いつの間にか両手は解放されていたけれど、すっかり彼のペースに嵌まっていた私は、それに気づいてもバカみたいに従順だった。


恥ずかしさに戸惑いながらも、怖ず怖ずと唇を開く。すると、篠原は満足げな笑みを浮かべ、熱い舌を絡ませた。


キスが、深くなる。
ねっとりという表現が相応しい彼のくちづけは、私の理性も心も奪っていく。


“キスに溺れる”という意味を、篠原に教えられた。
彼の作品に出てくるその表現をずっと理解できずにいた頃が嘘のように、今ではこうして我を忘れてしまうようなキスに陶酔している。


離れた唇に寂しさを感じるなんて間違っても言えないけれど、心の中では『もっと』と訴えている自分がいた。


「せんせっ……」

「龍司」

「アッ……、りゅっ、じさ……」


窘めるように胸の頂きを噛んだ篠原を舌足らずに呼べば、彼は満足そうに瞳をゆるりと緩めた。

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