極上ショコラ〜恋愛小説家の密やかな盲愛〜
「……雛子」


なにかを求めるような呼び方にも聞こえたけれど、今の私にはその真意を知る術どころか、考える余裕もない。


篠原は普段の涼しげな表情を失い、肌はしっとりと汗ばんでいる。
ただの編集者としてここに通っていた頃には知ることもなかった彼の顔に、心を掻き毟りたくなるほど乱されてしまう。


私に欲情する篠原を愛おしいなんて思ってしまうのは、熱に浮かされたような思考のせいに違いなくて。
だから、時折交わる瞳にどうしようもなく幸せを感じて胸の奥が高鳴るのも、彼に与えられる激しいキスが原因に決まっている。


「雛子」


もう、うんざりだ。
お決まりの台詞が、意味もなく頭の中を過る。


本当にもう、うんざりだ。
篠原に名前を呼ばれてしまうだけで胸の奥がキュンと鳴くことを思い知らされることも、どんなに抵抗しようとしても彼のキスひとつでこんな風に簡単に流されてしまうことも。


今までの私には考えられないような感情ばかりで、自分が自分でなくなっていくような感覚は少しだけ怖い。
それでも、この甘やかな情事に溺れてしまう。


「もっとドロドロになれよ」


だから、篠原の強引さにどんなに辟易していても、私はやっぱり彼には抗えないのだ──。

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