極上ショコラ〜恋愛小説家の密やかな盲愛〜
「撮影、お疲れ様でした」

「君はたしか、篠原さんの担当者の……。いやぁ、君にも色々と世話になったね」


社交辞令に微笑みを返し、映画への賞賛と感想の言葉を並べた。


いつの間にか篠原の腕にセリナさんの細い腕が絡まっていて、そんな彼女と目が合った瞬間に思わず顔が引き攣りそうになったけれど──。

「セリナさんも、長い間お疲れ様でした。セリナさんの演技、とても素敵でした」

必死に平静を装い、社会人になってから培って来た笑顔を貼りつけた。


「ありがとう」


ようやく私を見たセリナさんがニッコリと笑い、程なくして彼と監督が談笑を終えたところで、彼女が再び私と目を合わせた。


「ねぇ」


テレビや雑誌で見るものと同じ笑顔なのに嫌悪感を抱いてしまったのは、きっと絡められたままの腕が視界に入っているから。
篠原を見れば眉に不機嫌さが表れていたけれど、セリナさんは彼の微妙な反応には気づかないらしい。


「少し、篠原先生をお借りしてもいいかしら?」


そのうえ、よくわからない質問を投げかけられた。
どうしてそんなことを訊かれたのかは理解できないけれど、そもそも私に判断をする権限はない。


「私は、ただの担当者ですから……。先生に伺ってください」


なんとか笑みを浮かべたままの私に、彼女が満足げに瞳を細める。

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