極上ショコラ〜恋愛小説家の密やかな盲愛〜

Chocolat,03 思わぬ再会が呼んだ溝

ベイブリッジから程近いホテルの、パーティー会場。
立食形式になっているパーティーには、映画に携わった俳優やスタッフを始め、スポンサーなどの関係者が集まっていた。


その中でも一際煌びやかなのは、真紅のドレスを身に纏った主演女優のセリナ。
芸歴十年だという彼女の存在感は、遠くから見ていても圧倒的なものだった。


「あっ、篠原先生!」


会場に入るとすぐに、セリナさんは笑顔で駆け寄ってきた。


それはもちろん篠原のもとに、ということ。
隣にいる私のことなんて眼中にない彼女の目当てが彼だというのは、説明されなくてもわかる。


会場内がざわついたのは、その直後。


「お待ちしていたんですよ」


一挙手一投足ですら注目されているセリナさんの目の前にいるのは、原作者である篠原。
このツーショットが目立つのは、言うまでもない。


あまり露出しないとは言え、顔合わせや打ち合わせには参加しているから、この中に彼の顔を知らない人はいないだろう。


「やぁ、篠原さん」

「監督」


頭を軽く下げた篠原は、これ以上ないくらいの笑顔を見せた。


それが繕われたものだということには、すぐに気づいたけれど……。それには気づかない振りをし、私も笑みを浮かべて監督に頭を下げた。

< 91 / 134 >

この作品をシェア

pagetop