絵本男と年上の私。
18話「茶封筒のプレゼント」




   18話「茶封筒のプレゼント」


 「やっぱり車の中は温かいですねー。」
 しばらく歩いたお陰で、2人では普段と同じ様子に戻っていた。時間が解決してくれるというのは、こういった恥かしい場面でも同じのようだ。
 しずくは、自分が泣いてそして甘えてしまった事を、恥かしく思っていたが、今となっては白の事を普通に見られていた。
 スターチスの花を、助手席に座ったときに、フロントガラスの前に置いた。しずくの正面にある大切な花は、暗闇の中でも輝いて見える。しずくは、心の中で「またお花の宝石にしよう。」と考えていた。
 彼からの誕生日プレゼントを再び貰ったようで、更に貴重になった。
 だが、白が次の言葉を言った時、しずくはもっと驚いたのだった。
「今日は、しずくさんの誕生日ですよね。当日に渡したいものがあって。
 そういうと、脇にあったカバンから白は何かを探しているようだった。
「え、まって。この間の時にプレゼントを貰ってるし、今日もお花をプレゼントして貰ったし・・。だからこれ以上は受け取れないよ!」
 焦りながら白にそう言うが、「そんな事言わないでくださいよー。」と、笑いながらカバンからある物を見つけて取り出した。
「お金がかかった物じゃないですし。それに、これはしずくさんが貰ってくれないと誰も貰ってくれないゴミになっちゃいますよ。」
 そう言うと、原稿が入っているような少し大きめの茶封筒をしずくに渡した。もちろん「おめでとうございます。この日に会えて嬉しいです。」という白の言葉付きで。
「ありがとう。」と受け取ったしずくだが、誕生日プレゼントにしては、見覚えのある茶封筒に少しだけ戸惑った。何が入っているのか全く検討が付かないのだ。
 不思議そうにしているしずくに、白は少し慌てながら「すみません!ラッピングとか、どうやってやったらいいのかわからなくて。でも、怪しいものじゃないんで。」と、白がしずくを安心させるように伝えた。
 とても軽く、封筒に中に手を入れると紙が1枚だけ入っているようだった。「今、見てもいい?」と聞くと、白は嬉しそうに頷いた。
 しずくは、ゆっくりと封筒から紙を取り出してそれを見ると、目の前が明るくなるようだった。
 そこには、淡い色で描かれたイラストがあった。
 ピンクや紫のスターチスがブーケのようになっており、華やかさを出していた。
 そして目が入ってしまうのは、中央に描かれたものだ。
 そこには、にこやかに微笑む、見覚えがある女性がしずくを優しく見ていた。
「これは・・・私?」
 少しアニメのように描かれているが、自分にそっくりの似顔絵がそこには描かれていた。
 少し茶色の長い髪や、大きめの瞳は笑うことで少しほっそりしている。白い肌に頬が赤く染まっていて、耳にはお気に入りのピアスが光っていた。
「あ、わかってくれましたか!似顔絵のプレゼントなんて子どもみたいなんですけど、自分が得意なのはこれだけなので。」
 彼はそう言い、恥かしそうに笑った。
「え!?これ白くんが描いたの?」
 しずくは、目を大きくさせて白を見た。白は、しずくの驚きながらも嬉しそうに笑う顔をまじかで見たせいか、高鳴らせた。久しぶりに見る大好きな彼女の微笑みを自分が作ったという事が、とても誇らしくなる。
「はい。僕が書きました。」
「すごい!絵、上手なんだね・・・。というか、プロみたい。すごい・・・・ありがとう。とっても嬉しい。」
 しずくは、そう言いながら貰ったイラストをずっと見ていた。
 絵を描くというのは、きっと時間がかかるものだろう。細かいところまで丁寧に描かれており、白が自分を思って仕上げてくれたのが伝わってきた。
 彼は仕事が忙しくなると言っていたので、きっとこれを描く時間はほとんどなかったのだろう。自分の時間を削って作ってくれた。
 そんな彼の気持ちが、とても嬉しかった。
「こんな素敵なプレゼント貰えるなんて。白くん、本当にありがとう。大切にするね。」
「え!?そんな・・・。しずくさんに、そんなにも喜んでもらえるなんて・・。僕も嬉しいです。」
「白くん、どうしてこんなに上手なの?趣味とか?」
「えっと・・・実は、僕は絵を描く仕事をしているんです。」
「え!?そうだったんだ。知らなかった・・・。でも、そうだよね。こんなに上手なんだもん。デザイン関係とかよくわからないんだけど、イラストレーターっていうもの?」
「そう、ですね。そんな感じです。」
 自分の事を話すのが恥かしいのか、白は何故かそわそわしていた。
 彼が自分の事を話すのは珍しく、自分に話しをしてくれたのが、しずくには嬉しかった。
「写真とかないのに、似顔絵が描けるなんて、すごいね!」
「僕はしずくさんの顔はしっかりと頭に焼き付いているんで!」
「・・・え・・・。」
 また、恥かしい事を誇らしげに言う白を見て、どう反応していいかしずくはわからなかったが、恥かしさだけは感じながら返事に困っている。
 だが、それはすぐに解決させた。
「と、言いたいところなんですけど。実は写真はありまして・・・。」
「・・・・え!?写真、何で持ってるの!?」
「えっと・・・・怒りません?」
「・・・・話す内容によっては怒ります。」
「じゃあ、今の事は・・・。」
「だめ!忘れませんっ!」
 白は、残念そうにしながらも素直にスマホを操作し始めた。
 そして、写真のファイルをスクロールして、1つの画像を表示した。
 そこには、何かを見て微笑んでいるしずくの姿が映っていた。その服装や周りの様子から、前回会った時の物のようだ。
「・・・これ初めてデートした時の?いつの間に・・・・。」
「そうです。本屋さんで僕が買い物した後に、戻ってくる時に絵本を読んでたじゃないですか。その時、すごくいい表情だったので思わず・・・。シャッター音で気づかれれば、削除しようと思ったんですけど、しずくさん夢中になってて気づかなかったみたいなので、そのままに・・・。」
 自分が気づかないところで隠し撮りをされていたのには、しずくも驚いた。そして、白がそれを今でも持っている事にも。
「それ、隠し撮りじゃない!?だめ、恥かしいから削除して!」
「えぇ・・・。これ、僕のお気に入りなんです。」
「だ、だめ!削除ーーっ!私だけ、そんな写真撮られているなんてっ!」
 しずくは、白のスマホを取ろうとするが、白は簡単にそれを避ける。それを何回かしている家に、白はズボンのポケットにスマホをしまってしまった。
 さすがに、そこからスマホを取るのには抵抗があるし、彼の体に触れなければいけない。
 その自分の姿を想像して、しずくは一気に顔が赤くなってしまった。
 だが、それに気づいてないのか、白は「これは絶対削除しません。」と、頑なに拒否を続けていた。
「じゃあ、しずくさんだけ撮られているのが恥かしいというなら、僕の写真撮りますか?」
「・・・・。」
 冗談なのか、本気なのか、白はそんな事を言った。(白の写真、欲しいかも・・・。)と内心では思ってしまう。
「・・・いらない!」
 そんな気持ちを察知されないように、しずくは本心を隠して怒ってそっぽを向く仕草をしてみせたが、彼は笑って「そうですか。」と言うだけだった。

 白は自分の気持ちを全てわかっているのではないか。
 こんな時は、何故か彼を年下だとは思えないのだった。
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