彼と彼女の花いちもんめ~溺愛王子の包囲網~
彼が本当に好きな人
「急に呼び出してごめん」
 待ち合わせた駅前の噴水広場で、ベンチに腰掛けていたみちるに向かって篤樹が言った。
「あ・・・うん」
 何と言っていいのか分からずに、みちるが小さく首を振る。
 すでに最寄り駅まで帰ってきたと告げたみちるに、篤樹は“三十分だけ待って”と言った。 
 今からすぐに会社を出るという篤樹に、さすがのみちるも面食らったが、すぐに行くから、と言われてしまい、結局なし崩しのまま約束をする事になってしまった。
 これが営業の手腕というやつか?
 決して強引な口調では無いのに、どうしてだが逆らえない。
「何か、急がせちゃったみたいで、ごめんなさい」
 謝る必要もない気がしたが、駅の改札から走ってきた篤樹を見ると、言わずにいられなかった。
 そうまでして、話したいこと・・・
 よほど管理部の仁科との事が重要らしい。
「いや、それはこっちのセリフだから」
「でも、ここまで来てもらったし・・・南野さんって、この駅、最寄りじゃないでしょう?」
 勢いのまま、ここで待つと答えたが、別の駅で待ち合わせた方が良かったのでは、と心配そうにみちるが尋ねる。
「俺はもうちょっと西だから、ここは通過駅。だから気にしないで」
「あ・・・はい。で、話って?」
 落ち着かない様子でみちるが尋ねると、篤樹が視線を駅前の繁華街に向けた。
「どーせだから、飯でも食いながら話そっか。駅前のイタリアン、行ったことある?」
「・・・」
 ここで立ち話じゃだめなんですかっ?
 声を大にして言い返したかったが、結局人の良い笑顔に流されて、再び頷いてしまう。
 流されるまま、何度か言ったことのある老舗のイタリアンに向かうことになった。


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