一期一会
どれ位経ったかは分からない。
二、三分は続いていたと思う沈黙を突然中原君が破った。


「部活終わったら教室に忘れ物したの思い出して」


彼は私の背中を撫でながら会話を続ける。


「しかも携帯。西野は持ってないからまだわかんないかもしれないけど、手元に無いと結構不安になるんだって」


彼の声がいつも以上に優しく聞こえる。


「今ハマッてるアプリゲームがあるんだ」


私から何の返事もないのに話し続けている。


「レアキャラ、ゲットしたくて昨日も夜更かししちゃってさ」


彼の顔は見えないけれど、声のトーンからするときっと笑顔だと思う。




中原君は私が落ち着くまで背中をずっと擦りながら、いつもみたいな他愛もない話をしてくれた。

その大きな手の温もりと優しい低い声に安心感を覚えると、徐々に冷静になってきて涙がようやく止まった。
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