不機嫌な茶博士(boy)
プロローグ
「…朝倉さん…」

 片頬を引き攣らせながら、遠野翔眞(とおのしょうま)は言った。

「俺、朝、フツーのでお願いしますって、言いましたよね?」
「はぁ…、すみません。」
 朝倉さんと呼ばれた翔眞の前に立つ五十代の男性は困ったように、綺麗に整えられた白髪交じりの髪へ手をやった。

 その手には白手袋がはめられ、紺のスーツにネクタイを締めている。
 背後に停められた車の白いボディは、傷一つ無く磨き上げられ、鼻先についた某有名メーカーのエンブレムが眩しく光っていた。

「スゲー、Sクラス…」と通りすがりに呟いたのは、よりにもよって同じクラスの奴じゃないか!
 こんな車で、“学校の”正門前にお迎えが来るって、どんな仕打ちだよっ?!

「いや、奥様が“威厳というものが大事だから”と仰るもので…」

(威厳もクソもあるかぁ!)

 おそらくその時母が浮かべていたであろう、ふふっと愉しげに目を細めた顔を思い浮かべて、翔眞はギリッと拳を握り締めた。


(俺がこれから行くのは女子高だっつーのっっ!!)







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