Adagio
「ペースは人それぞれ。綿貫が必死になって、自分で考えようとしたことも、何かに気づけたことも、ひとつの成長なんだよ。

綿貫、多分また分からなくなることもあると思うよ。分かったと思ったのに、分かってなかったってへこむこともあるでしょう。でも、そのたびにまた勉強していけばいつかちゃんと自分のものになるからそれでいい。

たくさん伸びしろがある子ほど、この会社でたくさんのやりがいを見つけられる。人の苦労だってよく分かるようになる。ね」

 トレンチを羽織り、一足早く支度を終えた宇美が、有紗の背をぽんと叩いた。

「帰るよ。一緒に出ましょう」
「はいっ」

 有紗は仕事道具を慌てて引き出しにしまい込み、PCの電源を落とした。

 ビルの外はすっかり暗くなっていた。路面店の並ぶ路地を抜け、外灯に照らされた線路沿いの道へ出る。駅へと向かう人の流れに乗って、有佐と宇美は駅に向かった。

いつも部下たちを見送って、一番最後に人事部を出る宇美と、帰宅が一緒になるのは久しぶりだ。
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