Adagio
途方もない話に聞こえるが、神長にとっては当たり前に手の届く現実である。坂巻は感心したように頷いた。

「大学の頃からもうそんなに先のこと考えてたんだ」

「はい。AIが人間の模倣をすることを喜ぶ時代ではありませんから。そこからどう応用していくかが重要かと。もちろん多くのデータを引き出すためにも、人間と同じように会話が出来る、という要素は必須ですが」

「神長くんは、世間の認識の何歩も先を行ってる」
「おかげで学生時代の論文では、なかなか苦労しました」

 冗談めかした返事だが、これはおそらく事実だろう。近い将来の話をする間もないほど『今』に手一杯だが、そのうちゆっくりと大学時代の話も聞いてみたいものだと坂巻は思った。

「まきさん」
 神長がふいに書類の山の上に乗っているスマートフォンを指した。メッセージの着信らしい。

「佐倉さんだ」
 ポップアップメッセージには、今週末の誘いがあった。
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