Adagio
■4

 人種のるつぼ。そんな言葉がぴったりの街、新宿は今日も人でごった返している。

 その日もいつものように定時きっかりに仕事を切り上げ、有紗はひとり張り巡らされた巨大迷路のような地下通路を歩いていた。

仕事用の服を買ったあとには、ひとりで少し特別なディナーをとる。週に一度の定例行事は、有紗の楽しみの一つだった。

 一人席がメインで気軽に立ち寄れ、ハイクラスな料理を堪能できる、食通の願望を具現化したようなレストランが有紗の行きつけだ。新宿にはあらゆる種類の飲食店が集結しているが、これはかなり珍しい形態になる。

 二、三週間おきに入れ替わる、日本屈指の有名レストランの味を気軽に楽しめ、値段は三千円台と破格。

その上、その日に提供された前菜からデザートまでのレシピがもらえるという、贅沢すぎるおまけまでついている。

実は、そのレストランはデパ地下にある。立地の特異さもあって、あまり人に知られていない、新宿の穴場である。
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