Adagio


 帰路につく人で溢れてもおかしくない時間だというのに、新宿駅中央東口の改札からは未だに大勢の人が吐き出されてくる。

 人の流れの邪魔にならないようにと、有紗と華美は一旦改札横のスペースに避難した。離れがたさを触れ合うことで伝えようとするカップルの横で、二人も今日の別れを惜しんだ。

「どうしよう、まだ苦しい。結局おなかいっぱいコースになっちゃったね」
 華美は改札の内外を隔てる柵に片手をついて、身体をくの字に折り曲げている。

「はぁぁ、今日もまたやっちゃったって感じですう」
 脱力したように有紗が言うと、華美はくすくす笑った。

 デパ地下で軽めのイタリアンコースのあとに、ハワイから上陸したばかりのパンケーキカフェに寄り、しっかり一人前デザートを食べてしまった。

 有紗は同じ量を食べた華美に感心していたが、やはりあちらはキャパシティオーバーだったようだ。
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