Adagio
「ごめんなさい、首藤さん。さっき挨拶から戻ったとき、首藤さんの気持ちを考えない言葉をかけてしまって」

「え? そんなことないよ、ぜんぜん。綿貫さん気にし過ぎですよ。それに、私だってそういうの見せないようにしていたんだし」

 書類をテーブルの上に広げてはみたものの、二人の手はそこで止まっていた。直接の業務とは少し離れてしまうが、有紗はこの会話の流れを壊したくなかった。

「首藤さんが人事部に来てくださって、よかったです。ここだったらほとんど残業もないし、宇美さんは家庭や個人の事情にも、とても理解のある方ですし」

「ほんと、そうですよね。実は、辞めたいと思ったのをきっかけに、今までの仕事を振り返ったとき、ふと宇美さんとの面接を思い出して。

私のことなんて『だれ?』って感じかなって思ったけど、電話してみたら宇美さん、昔話したことも、私が忘れてしまっていたようなことまで全部覚えてるの。びっくりした」
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