Adagio
「いざ復職の日が近付いてきたら、仕事だけじゃなくて家のこととか急に全部が不安になってきて。どちらも中途半端にしてしまったら、きっとそれがいちばんストレスになると思ったから、本当はね、復職も辞退してこの会社を辞めようかと思ってたんだ」

 周りに聞こえないようにと、首藤は声を落とした。

 復職の挨拶から戻ったとき、首藤の反応が今ひとつだったのは、異動の件が関係していたのかもしれないと、内心ハッとさせられる。もしかしたら、社交辞令のような言葉すら、彼女を傷つけてしまっていたのかもしれない。

 有紗は「ここだと狭いから一旦広い場所で書類整理しましょう」と、表向き格好のつく理由をつけて、先程宇美と使っていた個別ブースに首藤をそっと促した。

自分に何ができるとも思えない。それでも有紗は仕事の話をするよりも先に、きちんと向き合って首藤の話を聞きたかった。
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