Adagio
口調につい、熱がこもる。神長は驚いたような表情で有紗を見つめていたが、しばらくして片手を口元に当て、ふっと笑った。

「今日は渡す機会がなかったので、またそのうちと思っていたんですが、よかったです」
「嬉しい。いただきます、すごく楽しみです」

 手渡された袋を素直に受け取りながら、有紗の口元にも笑みがこぼれた。あとで首藤にお裾分けすれば、ちょうど昨日もらったチョコレートのお返しにもなる。

「あの、少し神長さんに訊きたいことがあって。途中まで一緒にいいですか?」
「はい。それはもちろん」

「就職活動してたとき、神長さんはどういった企業を受けて、どういうところに受かったり、だめだったりしたか、ちょっと教えてもらえたらなあって。今ちょっと、採用に関する勉強をしなきゃいけなくって」

 もちろんこれは、宿題のヒントを本人から直接掴むための質問だが、人事部の人間がこれを訊くなら違和感はないはずだった。二人は駅に向かって歩き始めた。
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