Adagio
「神長さんって大きい会社はまったく検討しなかったんですか? 福利厚生も充実してるし、有給とかちゃんと取れそうですし、規模の大きな仕事を任せてもらえるとか、そういうメリットもあると思うんです。だから、どうしてかなって」

「……一言でいえば、合わないから、かな。それに、会社の経営に携われる立場になるまで、早くても約十年はかかるでしょう。ベンチャーなら、一年目から経営も学べます」

「なるほど。そういう考え方もあるんですね、勉強になります」
 有紗は整った横顔を見上げ、神妙な顔をして頷いた。

「綿貫さんは、どうして今の会社を選んだんですか? 福利厚生などのメリットが多いからですか」

「え、わたしですか? 選んだというか、実は他にどこも受からなかったんです。三月に入っても就職が決まらなくて、ぎりぎりのところで宇美さんに拾ってもらったんです。

周りはみんな高学歴の人たちばっかりで……、本当はわたし、こんな大きい会社で働けるようなスペックじゃないと思うんですけど」
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