Adagio
有紗が頷くと、首藤はInnocence宛にメッセージを打った。

『好きじゃない人に告白されたけど、どうやって断ったらいいのかわからないから、教えて』

「どうだ!」
 二人でじっと反応を待つ。数秒待つと、画面にはたった一行の文が表示された。

『あなたは誰』
「えー? 答えてくれない」
 嘆く首藤と裏腹に、有紗は少し感動してしまった。

「すごい、文字打ったのがわたしじゃないって、ちゃんと判別できてるんだ。向こう側に人がいるみたい。会話の流れで読むのかなあ……」

 しかしそれっきり、Innocenceは黙り込んでしまった。機嫌を損ねてしまったのだろうか。それ以前に、そういった感情があるのだろうか。

「あ。お昼、終わりですね。すみません、邪魔しちゃって」
 首藤は両手を胸の前で合わせて、申し訳なさそうに頭を下げた。

「いえいえ」
 スマートフォンを鞄にしまい、午後からする仕事の書類を準備する。
< 98 / 131 >

この作品をシェア

pagetop