【短】碧くんしか見てないよ
廊下の隅にやってきた。
「いきなりごめんね」
「…べつに」
べつに。って。
わたし、可愛げなさすぎでしょ。もっとニコニコしなきゃ。
碧くん、耳の後ろの髪の毛、寝癖ついてる。
可愛い。
わたしより、碧くんのほうが何倍も可愛いんだけど。
「あの、さ」
碧くんは少し気まずそうな表情をした。
いったいなにを……言われるの?
今までなら、たいてい告白だけど…碧くんがわたしのこと好きなわけないし…。
どうしよう、ドキドキしてきた。
碧くん、やっぱり、かっこいい。
サッカーしてる姿じゃないのに。
わたしより背が低いのに。
やっぱり、かっこいい…。
わたし、表情豊かじゃなくて、よかった。もし表情豊かだったら、今絶対、にやけてる──
「…放課後、サッカー部の練習、渡り廊下から見てるよね?友達とふたりで」
口を開き、尋ねてきた、碧くん。
いろんな意味で、ドキッとした。
まさかそんなことを聞かれるなんて。
碧くん、気づいていたの?
どうしよう、次からもう恥ずかしくて見に行けないよ──
「俺は気づかなかったんだけど、今、サッカー部でそれが話題になってるんだよね」
「っえ…?」
「紺野さんがだれを応援してるのか部員が盛り上がってて。この前保健室でたまたま紺野さんと話したよって言ったら、なぜか俺が聞いてこいってなっちゃってさ。ごめんね、こんなことで呼び出して」
「………」
……一瞬で、心がどこかに堕ちてしまったようだった。
「絶対聞いてこいって部員がうるさくてさ。部員のあいだでは、やっぱり赤松先輩だろーとか言ってて──」
「ッ赤松先輩なんか、いちミリも興味ない……っ!」
わたしの口は思わず、そう叫んでた。
「紺野…さん?」
碧くんだけには、絶対勘違いされたくない。
だって、わたしは……。
「わたしは……
……碧くんしか見てないよ……っ」
わたしの声は、
雨にかき消されてしまいそうだった。