珈琲喫茶 チャールズ の事件簿
木々の間を通って進むと少し古びた小さな家があった。
本当に喫茶店なのだろうかと言うぐらいこじんまりとしていたが、引き返す気力なんて全くない。
それ以前に、この空気が疲れを癒すようでとても心地よかった。

『カランカラン…』

「いらっしゃいませ、何名様でございますか?」
「1人です」

友人がそう言えばこの喫茶店の話をしていた気がする。
確か「珈琲はクソまずいが紅茶は一級品。アールグレイのセカンドフラッシュよりも美味しい。
そして紅茶を淹れる人はとても聡明な方で謎解きが趣味」だったか。

カウンター席の一番端を陣取り
「暖かい紅茶と暖かい珈琲を1つずつ。」
とお願いする。

「お客様、本当に珈琲を頼まれるのですか?マスターの淹れる珈琲は飲めるものじゃありませんが…」

「マスター、ですか?」

「はい、あちらに…」

店内を見回してみると、ハンモックの上にごろりと寝転がっている白髪の老人がいた。少しふくよかな体型でシャム猫を抱えている。

「あの方、常連さんではなかったんですね、少し驚きましたよ」
と笑うと店員さんは少しだけ苦笑いをして
「おじいちゃん、仕事サボらないでください。こちらの方に常連と勘違いされていますよ。あと、注文入ってます。」
とマスターを叱った。

マスターを無理やり調理場へ引きずり、カウンターへ戻ってきて店員が話しかけてくる

「何か問題ありませんか?恥ずかしながら少しだけ謎解きが趣味でして…」

と言うので

「友人に聞いた通りですね、わかりました。謎解きかどうかはわかりませんが、僕の職業を当ててみてくれますか?」

「わかりました、それでは紅茶を入れますね。少々お待ちください…」

店員は慣れた手つきで紅茶を淹れ始めた。

少し難しい顔をしながらティーポットに慎重にお湯を注ぐ姿はまるで紅茶を愛でているようでとても神々しかった。


「珈琲、できたよ」

マスターの言葉で我に返り珈琲をすする。
とても苦い黒い液体と鼻に付く香りがなんとも言えないハーモニーを奏でる。
簡単の言うとクソまずいのだ。

「お客様、マスターの珈琲はいかがですか?正直にお答えください」

「はっきり言っても大丈夫ですか?」

「構いませんよ。」

そう店員が言うので

「はっきり言うとクソまずいです。」

と答えた。

「ありがとうございます、珈琲の代金は頂きませんのでご安心ください。結構いい豆使ってるんだけどな…これだけ下手に珈琲を淹れられるのはもはや才能ですね…ほらおじいちゃん、とっとと全部飲んで。」

おじいちゃんにクソまずい劇物を飲ませつつこちらに視線を向け、紅茶を差し出して一言。



「この謎、大変よく淹れられました。少しだけ簡単でしたよ。さぁ、謎解きを始めましょう。」
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