breath
誰かが帰ってきたのだろう

玄関のドアの開閉の音が聞こえる

「明日美、帰ってるのか?」

私の脱ぎ散らかした靴を見たのか、父の声が聞こえる

階段を上がり、私の部屋のドアをノックもなしに開ける父

家中が真っ暗だったので不在だと思ったのかもしれない

窓の向こうの月明かりに照らされた、ベッドに横たわって号泣している私を見て、父は駆け寄ってきた

「明日美、大丈夫か?」

父は私を抱き上げ、抱きしめる

「うっ……んん……」

泣いている私の口からは言葉が出るはずもなく、鳴き声だけ

父は抱きしめながら、私が落ち着くのを待っている

父は娘の私には昔から優しい

弟よりも溺愛しているのは明らかで、いつも態度に出ていた

そんな父は私を子供のように髪を撫でながらあやしている

樹さんや専務とは違う胸の中

小さい時から、ずっと気に胸の中で守られてきた

今までも

そして、これからも
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