大事にされたいのは君
ぎゅっと机の上で手を握って、勇気を振り絞って振り返った。
「よかったらこれ。私、朋花ちゃんと見るから」
「…え?」
何が起きたのか分からないとでも言うように、ピタリと私を見て動きを止める瀬良君。プリントを差し出したまま行き場の無い手の緊張感が、早く早くと次の展開を私に促す。
「め、メモとか取ってくれても構わないし、次の時までに返してくれれば良いから。使って」
ジッと目を見て、いらないとは言わないでと心で念じながらもう一度声を掛けた。するとハッとしたように瀬良君の身体に動きが戻り、「ありがとう」と、受け取って貰えた。私は何気無い行動を装いながら前へとまた、身体の向きを戻した。
「……」
余韻がすごい。手汗と少しの震えが私の緊張をそのまま表していて、けれど気持ちはなんだかふわふわしていた。やった。自分から話し掛けた。受け取って貰えた。
「良かったね、由梨ちゃん」
小さな声で言ってくれた朋花ちゃんに、ありがとうと笑顔で返した。自然と浮かんだ、にやけたような変な笑顔だっただろうと思う。だって貸したって事は、返して貰えるって事だ。それって次への約束と同じだ。向こうから声を掛けて貰えるって事だ。
「……」
もうなんだか浮き足立って、ふわふわ、ワクワクして仕方なかった。ただプリントを貸しただけなのに。それだけでこんなにも心の中で喜びが湧き上がるなんて、
「まるで恋する乙女ですね」
そう言った隣の彼女の言葉は、穏やかな暖かい色をしていた。…はずなのに、また私は喜べなかった。