大事にされたいのは君

周りには黙ってるって、面倒だからって、巻き込みたくないからって、そう言っていたのに。今ここで彼はその秘密にしていた事実を声高々に宣言したようなものだ。一緒に食べてくれない、なんて。いつも一緒だ、なんて。

なんでそんな事をしたんだろう。集まる視線が物凄く痛く、重い。もはや線で刺さるように集まっていたはずの視線は壁のような重厚感すら持ち、圧迫感と逃げ場の無さで今すぐここから逃げ出してしまいたい私を押さえつけて来る。もう私には何も出来ない。

…そんな息をするのも辛い空気の中での、事だった。

「てか、二人は付き合ってるの?」

その言葉が、目の前の彼女の口から飛び出した。そのせいで視線は全て彼女に覆いかぶさるように雪崩れ込み、私の身体は少しだけ軽くなる。

「いやね?最近よく聞かれるからさ、実際どうなのかなーと思ってね?」

あははと笑って、のしかかる重い視線と興味の塊のような空気をなんとか軽くしようと努力する彼女ーー朋花ちゃんはきっと、助け舟を出してくれたのだと私は気づいた。皆が聞きたかった言葉をわざわざ口にして私に集まっていた視線を肩代わりする事で、固まって何も出来ないでいた私にここでハッキリさせる機会を作ってくれたのだと思う。関係無い態度で知らない振りも、出来ただろうに。向こう側から同じようにする事も、出来ただろうに。

ありがとう朋花ちゃん、ごめんね朋花ちゃん。

「つきあ、」
「付き合って無いよ」

意を決して口を開いたというのに。わざと被せるようにそれを告げた瀬良君によって、私の言葉は阻止された。
同じ事を言おうとしていたにしても、彼が堂々とそれを口にした事に私は驚きを隠せ無かった。慌てて窺ってみた先の彼には表情が無く、笑顔の印象が強い彼の無表情に私は思わず怯んでしまった。俺が言うから黙ってろとでも言われているような気持ちになったけれど、そんな事を彼が言うとは思えない。今何を考えているのかが分からない。
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