大事にされたいのは君
「うるせーな。入ってくんじゃねぇよ」
「吉岡さんおはよう」
「え?あ、おはよう」
「聞いてねーし!」
苛立つ瀬良君を他所に、三好君は私に注目した。三好君にジッと見つめられると落ち着かず、私は逃げるように目を逸らした。表情が変わらず何を考えているのか分からない所と、気持ちをそのまま真っ直ぐ突きつけてくる所が私はどうも苦手で、ついおどおどとした態度を取ってしまう。
「ほら、吉岡さん困ってんだろ。やめろ」
「何もしてないけど」
「無遠慮に見てんだろ。普通に良い気分しねぇし」
「そんな風に見てない」
「見てんだっつーの。昔からそうだ、興味持つとマジで遠慮ねぇ所あるからな」
「おまえの悪い癖だ」と、溜息混じりに言う瀬良君に対して三好君は、「おまえが敏感なだけだろ」なんて飄々と答えた。確かに瀬良君には人の気持ちや仕草に敏感な所があるけれど、こればっかりは瀬良君が正しい。誰が見てもそう感じると思う。これで見ていませんは通用しない。
それなのに、三好君にはその意識が無いらしい。もし本当に三好君自身にジッと見ている自覚が無いのだとしたら、そんな有り得ない事が起こるとするならば…それがもし私の場合だったのなら、何か考え事をしている時にならごく稀に起こり得るのかもしれないと思った。もしかしたら、三好君は自分の思考の世界に入り込んでいたのかもしれない。だから三好君の表情筋もジッと動きを止めていたのかもしれない。むしろそうでないと可笑しいのかもしれない、可笑しいと思う分だけそうだとしたら納得が出来る。
「三好君は今何を考えてたの?」
そうだとしたらの先で、思い切って尋ねてみた。そんなに集中してしまう程の何かにとても興味を持ったのだ。もし悪い事であったとしても、私と挨拶をした瞬間から囚われるように思考してくれたものなら知りたいと思った。俄然彼に興味が湧いた。