大事にされたいのは君

席を立つ瀬良君の後に続いて教室を出て、校舎を出て、私の家へと向かって…またきっといつも通りになるものだとばかり思っていた。いつも通り何も無かった事になるのだと。…しかし違った。そこには何も無かった事にしようとする彼が居たけれど、出来ていない彼が居た。彼の浮かべる笑顔はどこか寂しげで、視線がこちらに向く事は無かった。

もしかしたら私は、間違えたのかもしれない。

何に対してなのかも分からないのに、漠然とそんな事を思った。きっとまた手遅れが一つ生まれた瞬間だったのだ。だからこの日が境となった。

その日を境に、瀬良君は私に距離を取るようになった。

距離を取る、とは言っても、そこまであからさまなものでは無い。「おはよう」と、挨拶を交わしてから並んで登校するのは変わらない。しかしここで誰か他の人、例えば三好君だったり、朋花ちゃんだったり、他のクラスメイトだったり、誰でも良い。第三者が一人でも介入すると、彼はスッとその場を離れるようになった。それは登校だけに限らず、学校生活内全ての時間に適応されて、放課後のような二人の時間以外に彼との接点が無くなった。

それだけならば以前までとさほど変わりが無いと思うかもしれない。しかしもう一つ。そのもう一つの違いが私には大きく響き、距離を取られているのだと私に確信を持たせたのだ。

「吉岡さんさ、嫌な時は嫌だって言って?普通に用があるなら俺も別の用入れるし」

「あ、いや、別に用事とか無いし…」

「ほんと俺に気とか使わないでいーから。あ、明日俺来れないから吉岡さん先に帰んなね」

「…うん」

なんだか、素っ気ない。とても素っ気ない態度なのだ。
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