大事にされたいのは君
何をしてしまったのかなんて分からない。それでも二人の時間は作ってくれるので、きっと私の事を嫌いになった訳では無いのだと思う。しかし勘違いとは言い切れない違いは、日が経つにつれてどんどん露わになっていくばかりだった。
「おはよー吉岡さん。あれ?瀬良は?」
「おはよう、小畑君。今日はまだ会ってないよ」
「そーなん?珍しーね、朝といえば吉岡さんべったりだったアイツが」
「おっす、吉岡さんに小畑!ん?瀬良は?」
「おはよう、湯山君」
「瀬良居ねーんだよ。休みだったりしてな」
「えー、今日瀬良にマンガ持ってきたんだけど」
「持ってき損じゃねぇか」と、がっかりする湯山君に、ケラケラと笑う小畑君。彼らは例のお昼のメンバーであり、最近はこうやって名前を呼んで挨拶ついでに雑談を交わす仲となっていた。お昼のメンバーの人達とは着実に距離が縮まってきていて、教室内でももう以前のように、朋花ちゃんしか話す相手が居ないような空気感は無くなってきている。
「あ、瀬良じゃん。おーい瀬良ー!」
学校の敷地内に入り校舎の入り口が近づいて来た頃、先に彼の背中が見えた。迷わず声をかけた小畑君に、瀬良君は振り向いてこちらを確認する。そんな彼と私も目が合った。目が合った…けれど、
「あれ?行っちまったな。吉岡さん居るから飛びついてくるかと思ったけど」
ヒラリと手を振り、さっさと昇降口へと入って行ってしまった彼を不思議そうに眺めながら小畑君は言った。湯山君は、「とりあえず休みじゃなくて良かった、マンガ渡してくる!」と、私達に告げて、彼の背中に向かって走り出す。私は、何も出来ずにただその光景を見送った。
「…吉岡さん大丈夫?」
私の顔を覗き込みながら尋ねてくる彼には、一体どの様に見えていたのだろう。
「何が?」
なんて気づかない振りをして誤魔化して、私は今日も痛む心に蓋をした。今日のは厳しかった。今までで一番堪えた。